リハビリテーション・リハビリの内容や安全性、アプローチの方法

リハビリテーションは、身体の障害など、能力が低下した状態を改善するために行うさまざまなメソッドのことです。障害を持つ人自身が行う訓練のみならず、環境や社会を、障害を持つ人々が暮らしやすいように変化させることもリハビリテーションの目的です。この記事では、リハビリの内容や安全性、アプローチの方法をご紹介します。

リハビリの定義

リハビリテーションの語源はラテン語とされ、その意味するところは「本来の状態に戻ること」。リハビリテーションは、身体の障害などにより低下した能力を改善するために行う、さまざまな手段のことです。一般的な認識としては、障害を持つ人が、環境に適応するために行う訓練というイメージのあるリハビリテーションですが、それとともに、障害を持っていたとしても暮らしやすい街作りや社会作りを促進することもリハビリの目的です。

現在、リハビリテーションは、医療保険や介護保険に含まれる、医学や教育、社会を含めた、さまざまな方向からのアプローチにより行われるサービスの一環だといえます。リハビリテーションは、その障害や社会的な慣習、偏見などにより傷つけられることなく、本来あるべき状態に戻ることを助ける、基本的人権の一つなのです。

リハビリの内容

ここからはリハビリテーションの内容について考えてみます。リハビリテーションの定義については触れたとおりです。さらにこのリハビリテーションは、障害を持つ人が環境に適応するために、医療関係者や専門知識を持つ人々と行う訓練「医学的リハビリテーション」と、社会福祉や職業、教育といった「総体によるアプローチ」という二つに分けることができます。

医学的リハビリテーション

医学的リハビリテーションの目的は、主に機能を回復することです。心や体に起こる障害の中には、脳や脊髄の疾患や怪我を原因とする「神経系障害」、呼吸器や消化器などの「内蔵器系障害」、資格や聴覚などの「感覚器系障害」、精神や心理に起こる「知的機能系障害」などがあります。医学的リハビリテーションでは、医師が診察を通して障害の状況を判断し、目標を設定。担当スタッフにリハビリの目的やリスク管理上の限界などを指示し、リハビリの進行をマネージメントします。医学的リハビリテーションに関わるのは、「リハビリテーション専門医」のほか、「リハビリテーション看護師」「理学療法士」などの専門家が協力して行います。

総体によるアプローチ

医学的リハビリテーションと同様に重要になるのが、専門の知識や能力を持つ人が協力して行う総体によるアプローチです。この総体によるアプローチは、医学的リハビリテーションだけではなく、たとえば「教育」や「社会福祉」といったエリアで行われるものです。障害は、日常生活や社会におけるさまざまなイベントへの参加を限定しますが、これらは医学的なアプローチだけで克服できるものではありません。医療に関わる人たちと共に、関連分野の人々が協力して、障害を持っていたとしても暮らしやすい社会を実現しようとする努力がリハビリテーションには求められます。これがリハビリテーションにおける総体によるアプローチです。

リハビリと安全

リハビリテーションは、すでになんらかの怪我や障害を負っている患者が行うため、転倒などの事故により負傷、症状の悪化、などのリスクに備える必要があります。怪我や障害の状態を考慮することは当然として、体温や脈拍の状態によってはリハビリを行わないなど、的確に判断する必要があります。さらにリハビリテーションを行っている最中も患者の状態は常にチェックします。特に高血圧の治療薬や精神安定剤、睡眠薬などを処方されている患者の場合は、ふらつきなどによる事故の危険性が高まりますので、リハビリメニューも細心の注意を払って組み立てる必要があります。

リハビリ・専門家との協力体制が重要

リハビリテーションは、医師などの専門家と、家庭環境や教育、雇用、経済面など、さまざまな分野の知識を持つ人々が協力して実施します。

理学療法

理学療法は、運動機能の回復を目的としたリハビリテーションで、運動療法と物理的療法が用いられます。理学療法の対象は、整形疾患や中枢神経疾患を持つ患者です。運動療法には、たとえば「筋力アップ」「関節の可動域の拡大」「麻痺の回復」を目指す運動のほか、「歩行練習」「寝返り」などの練習が含まれ、理学療法士がリハビリを担当します。物理的療法は、これらをサポートする目的で使用され、たとえば「マッサージ」「低周波」「ホットパック」などがこれに当たります。

作業療法

作業療法は、仕事や趣味など、日常生活における動作を取り入れたリハビリテーションの方法です。これら生活で繰り返されるいろいろな動作は「作業活動」と呼ばれますが、これらの動きをリハビリに取り入れることにより、生活や自宅に戻ることをサポートします。患者の退院後の生活は人それぞれ異なります。実際に生活に戻ったときのことを考えながら、話し合いによりリハビリの目標を設定するのが理想的です。目標を常に見据えて、繰り返し、生活に必要な動作を訓練します。作業療法士がリハビリを担当します。

言語聴覚療法

言語聴覚療法は、言葉に障害を抱える患者を対象にさまざまなリハビリを行います。有効なメソッドを探り、実生活においてコミュニケーションをスムーズにとれるようになることが目的です。失語症や構音障害、言語発達遅延などを持つ患者のほか、咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)障害を持つ患者のリハビリにも、言語聴覚士を中心とした専門家の協力体制で臨みます。

そのほかのアプローチ

リハビリは、機能回復を目的とした訓練ですが、ご紹介してきた以外にも、リハビリに関わる専門家がいます。

臨床心理士

臨床心理士は、注意障害や知的機能などの認知機能や、情緒(性格)に関わる機能の評価を行う専門家です。中枢神経系の障害である脳卒中や脳性麻痺、また自閉症などのリハビリには欠かせない人材ですが、国家資格ではないため、今後へ向けての大きな課題となっています。

医療ソーシャルワーカー

患者を取り巻くさまざまな要素を調査することにより、そのニーズや解決策を特定、福祉制度の利用も含めて患者やその家族を支援する専門家です。ただ、臨床心理士同様、公的なポジションとして確立していないことは、解決すべき課題だといえます。

このほか、リハビリテーションに関わる職種として、「視能訓練士」や「あん摩マッサージ指圧師」「柔道整復師」などがあります。

リハビリについてのまとめ

リハビリテーションは、本来持っていた機能を取り戻すために行う訓練ですが、ご紹介してきたように、医師を中心に、専門家や社会そのものが協力して行うことがもっとも重要です。これはリハビリテーションにおける「総体によるアプローチ」ですが、これにより患者が身体的、精神的なハンデを乗り越え、社会において何不自由なく暮らせるように環境を整えることが、本当のリハビリテーションの目的です。

いずれにしても「リハビリテーション=あるべき姿を取り戻すこと」は、すべての人間が持つ権利です。障害や、社会にはびこる偏見やシステムに邪魔されることなく生きる権利をすべての人間は持っているはずです。ただ、それを実現するには、社会全体のさらなる協力体制構築が求められます。